Angel Beats!(最終話:第13話)
▼最終話
言葉を選ぶことが難しい。いろいろな物が詰まっていて、そこにはこの世界で生きた人の想いが込められている。かなで[ CV:花澤香菜 ]がこの世界にいた理由、報われた死を迎えたはずの音無[ CV:神谷浩史 ]が"たまたま"この世界にいた偶然、Angel Beatsというタイトルの意味と"天使"と呼ばれていたかなで、最後には愛する人を失ってでも貫かなくてはならなかった音無の悲しみ。
少しずつ、少しずつこの13話に向けて進んできたストーリー。その全てが昇華されたこの13話。卒業式を迎えたゆり[ CV:櫻井浩美 ]やかなでの笑顔が不思議だった。これからやってくる別れ―、それは生きたことの意味を与えられる幸せなのか、それともこの世界で共に過ごした仲間との別れの悲しみなのか。音無がこの世界でのライフワークにしようと決意したのは前者のため。分かっていても、どうしてもそう簡単に割り切って見る事が出来なかった。俺のその葛藤と同じ、いや、それ以上の苦しい選択が音無の前に突きつけられてしまった。
音無が「愛してる!」とかなでに何度も叫ぶ。だけど、かなでの返答は「ありがとう」だった。愛の言葉ではなく、感謝の言葉。何故だろう。なんでかなでは音無の愛に応えることがなかったのか?かなでは最後まで、自分の青春をくれた音無への感謝の言葉を遺して消えていった。俺はこういうふうに理解したい。かなでは、再び音無と出会い、そしてそのときにこそ自分のその気持ちを音無へ伝えたい。その瞬間が訪れることを信じていたから、今はその気持ちを心にしまって音無の前から消えていったんだと。
▼生と死を描く
この作品に登場する"命ある"キャラクターたち。彼らは必死に生きているようで、実はそうではなかった。音無の行動でそう気づかされるまで、俺も何となくそんなふうに見ていた。だけど、彼らは自らの人生を否定し続けることでこの世界で生きていた。自分に与えられた境遇や不運に対する未練。そうじゃない。生きていくこと、生きてきたことには意味があった。自分たちの存在は無意味じゃなかった。それに気づき、この世界から去っていく事で生きたことの証を立てる。なかなか自分の存在の意義を見いだしにくいこの現実の社会に対して、強烈なメッセージを静かに、それでいて強くて太い芯のある声で語ってくれた。
▼泣きと笑い
麻枝准氏が大切にしたのは笑いの要素だったという。なるほど、そのとおりの出来になっていたと思う。基本的にはシリアスなストーリーなんだけれど、1話の中に全てシリアスな物語を詰め込んでしまうと、流石に重くなりすぎる。そこで登場するのは、ユイ[ CV:喜多村英梨 ]に代表されるコミカルな言動でストーリーを盛り上げてくれるキャラクターだ。これが多すぎても白けてしまうわけで、Angel Beats!においてはそのバランスが絶妙だった。それがこの世界を居心地の良い場所と錯覚させる隠し味にも実はなっていたんだな~と、最終話が終わって改めて思った。
▼作品を支えるアニメーションの質
制作期間という要素を敢えて取り除けば、P.A.WORKSは現状の日本のアニメ制作プロダクションの中で、随一のクオリティを持った絵を作り出すことが出来る。その力はこの作品でも余すところ無く発揮されていたと思う。キャラクターの表情やちょっとした仕草にも手抜きのない作画。激しい動きをする時も、人の関節の動く順番とか開ききる角度とか、そういう要素をちゃんと考えた作画になっている。だから、超人的な動きをするわけではなく、あくまで人間としてしなやかにスピーディに動く。これがリアリティを生み、作品への没入度を大きく高める。ストーリー、キャラクター、絵作り、そして音楽やキャストの演技力。全ての面において圧倒的なクオリティを見せつけられた作品だった。面白いという言葉ではない、とにかく一度見て欲しい。そんな作品だ。
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